「そして彼と会うことはもう無くなった」
「・・・・・」
「あたしはそれから自分の道を突き進んだ」
「彼のことは忘れた」
「彼があたしに問いかけたこと、彼の行動、全て過去に置き去り・・・」
「彼は・・・彼は10年後・・・あの汽車に乗るのよ」
「あ・・・あの汽車って・・・」
あまり感情を出さなかった少女が動揺した
「あたしがそれを知ったのは40になって久しぶりにこの地を訪れた今日だった」
「・・・それまで・・知らなかった。・・思いっきり ・思いっきり後悔だ!!」
少女に聞かせるために言ったのではなく自分自身に言っていた
「何故・・・彼は・・?」
作業員は転轍機に到着し先程の手順と同じように作業を行い機関車を誘導して本線に戻し再び転轍機を本線に戻した
機関車は警笛を一度鳴らして動き出す。
先程切り替えた転轍機をガタガタと音を立てて
通過し客車に向かってゆっくりと走り出している
「・・・事故・・・」
ゆうこはそれ以上ことは言わなかったが少女もそれ以上の答えを求めなかった
機関車がホームに少し掛かったところで一時停止、作業員が降り機関車の連結器を確認
次に客車に行き連結器を確認 完了後手旗で機関士に合図を送り機関車を誘導した
小さく汽笛を鳴らしディーゼル音を上げながら機関車はゆっくり走り出だす
すぐさまディーゼル音は下がり惰性状態になって客車に近づく
客車、機関車両方の自動連結器がガチャンと音を立てて接続する
同時に機関車はブレーキを掛けて停止し連結が完了する
作業員が連結器の状態確認 そしてブレーキホースの結合・確認を行う。
連結作業完了 この列車は上り列車の準備を終えた
観光客は機関車の交換作業を追っていた
ほとんどの観光客は鉄道風景を楽しむのが目的だったので
今は連結作業が終わり南に進行方向を向けた機関車の勇姿を写真に収めている
その光景を見ながら機関士が機関車から降り、
ホーム端に設置してある灰皿のところに行きタバコを吸い始めた
続いて作業員が合流 客車で仕事を終えた車掌も合流した
「・・・・・」
「彼は多分次の列車に乗ってくる。あなたが今日彼に会うことができれば、
あなた自身の人生が変わるし・・・
10年後の彼の運命も変えられるかもしれない」
強い口調で言ったゆうこに少女は少し驚いた
「・・・・・」
「あなたがこの列車に乗ってしまったら・・あたしと同じ道をたどってしまう」
夕焼けが更に赤みを増しこの小さな駅舎を染めていった
車掌から漏れる明かりの存在が大きくなっていき辺りの明るさは小さくなっていく
写真を撮っていたり辺りを散策していた観光客たちは徐々に列車に戻り始めた
発車時刻が近づいていた
「待ちなさい 次の列車を!・・・彼を」
「・・・・」
「今日、彼と会わなければ」
少女はゆうことの目線をそらした
この短い時間にいろんな事がありそして今残された時間で答えを出さなければならない
遠い目をした少女が再びゆうこの目線に合わせた
ゆうこの問いに答えを出すために小さくうなずこうとした時
「おーい、ゆうこ そろそろ出すぞ、乗らないのか?」
機関士の竹中が機関車の横か声を大きくして言った
少女は竹中の方を振り向いて
「はい」と小さく言った
「乗るの?」
「うん」
振り向かずに少女が答えた
そしてそのままゆっくり客車のドアに向かって歩き出した
「私も出来れば彼を待ちたい・・・でも出来ないんだよ」
「なぜ?」
少女は客車のデッキに乗り込み振り返ってゆうこを見た
その顔は少し前ゆうこが助言したときに見せた戸惑いの表情はもうなかった
「私はあなたなんだよ 私はあなたと同じ生き方をしていくんだ
きっとあなたの過去も私の未来も変えられない」
「・・・でも」
機関車の警笛が鳴った
ブレーキを解除するエア音が鳴り機関車のディーゼル音が高鳴る
客車は連結器の遊びの部分の衝撃によって少しガクンと揺れる
上り列車はゆっくりと走り出す
少女はデッキの手すりにつかまり身を乗り出した
「さようなら・・・忘れない 今日の出来事 あなたのこと」
ゆうこは何も言えずにただ少女を見送っていた
少女はいつまでもデッキから身を乗り出したままゆうこを見ていた
列車は踏切を通過する やがて警報機が鳴り止み静寂が包み込む
「・・・何も変えることが出来なかった」
列車が去ったあとも見続けながら一人呟いた
「あ・・・!」
視線の先にあった踏切の警報機が朽ち果てていた
気づけば線路もない。振り返り駅舎を見ると綺麗になっている
時刻表もないし明かりは消えている
現在(いま)に戻っていた
ただ夕日で真っ赤に染まった空の色だけは同じだった
・・・今のは何だったの?
夢?・・・まぼろし?・・・・
ゆうこはあるきだしてその場を離れた
無意識に線路があった場所を歩いていた
・・・あたしの願望が映し出されたの?
・・・あたしが彼女に会いに行ったの?
・・・彼女があたしに会いに来たの?
朽ち果てた踏切の警報機の前まで来ると足を止めた
そして振り返り駅舎を見た
・・・過去は、 変えられないんだ
・・・そして彼女の言うように彼女の未来も変えられないんだ
あたし自身が歩いてきた道 彼女もあたし自身
すべてを知っていたのかもしれない
真っ赤に染まった駅舎はゆうこを暖かく見守っているように見えた
廃線後、この駅舎だけは記念館としてその存在を許された
学生の頃 ゆうこと彼が過ごした時間をいつも暖かく見守ってくれていたのは
物言わぬこの駅舎だったのか?
・・・あなたが
・・・あの頃のあたしに会わせてくれたの?
・・・
・・・ありがとう
涙声に鳴りながら
「いつもあたしたちをみていてくれてたんだね」
語りかけても返事一つしない駅舎