ふたりのゆうこ

あれからどれくらいの時間がたっただろうか
日は落ちて燃えるような真っ赤な夕日が辺りを包んだ
ともるはずのない駅舎に明かりが付き、虫たちがその明かりを目指して飛んでいく
薄暗いおぼろげな明かりは遠い昔、毎日夜になると照らしてくれた、薄暗い暖かいあの明かりだ。

「まさか・・・」ゆうこは辺りを見回した。
記念館として整備された駅舎は以前の姿に戻っていた
剥がれ落ちた壁 割れたガラス 落書きの数々・・・そして壁に貼られた時刻表
「これは・・・」
待合室に人影があった
若い女性のようでその女性は待合室の明かりが灯ると何気に明かりの灯った電球を見上げた。

「あのときだ!」
遠い記憶の彼方に忘れ去られた出来事がよみがえった。
「あの少女は・・あたしだ!」
少女は電球を見ながら何かを考えているように見えた
ゆうこは今少女が何を思っているのか知っていた
少女はゆうこ自身なのだから

ふと思った
あの時はこの少女、そうあたし1人だけだったはずだ!駅の中では誰とも話さなかったはずだ!
今少女に助言をすれば自分の行き方が変わっていくかもしれない、間に合うかもしれない
でも過去の自分が変わってしまったら今の自分はどうなるのだろう?

少女は電球から目を離しおぼろげに正面を見た
ゆうこの姿が目に入り、少女はそっと立ち上がった
駅舎には2人以外誰もいない

立ち上がった少女は歩き出した、ゆうこに近づいてきた
壊れかけた木の改札を抜けホームに出た
ホームの左側を見つめ、線路の彼方を見上げた後、少女は振り向きゆうこを見つめた。
少女は何の違和感もなくゆうこに話しかけた
「あなたは・・・わたし?」
「わたし・・・なの・ね」

ゆうこは少しの間、少女に見とれていた。
夕日は少女の顔を染め、彼女は少し悲しげにゆうこを見ている
制服、右手に持ったカバン、履き慣れていた靴、お気に入りの靴下
間違いなく自分だと言うことを確信した。

ゆうこが口を開く
「そう、あなたは・・あたしよ」

少女は少しとまどいを覚えたようだがさほど違和感なく自然のままゆうこに訪ねた。
「あなたは、なぜ、ここにいるの?」
「わたしに会いにここに来たの?」

「何故自分がここにいるか、わからない でも自分がここにいると言うことは・・・あなたと会う為、あなたと話をする為にいるのかもしれない」

「・・・そう、あなたは、私の全てを知っているものね・・・何故私がここにいるのかも」

「あたしはあなたの未来の姿、今後あなたはいくつかの誤った選択をしてしまう それが今のあたしの姿」

「・・・後悔しているの・・・?あなたの・・私の生き方を」

その時駅舎から100m離れた場所にある警報機が鳴り出した。
2人は警報機に目を向けた
その先には小さな明かりがゆっくりと向かって来ていた。

後ろを振り向いている少女にゆうこは言った。
「後悔・・この気持ちを表現するのはその言葉が一番良いかもしれない」
少女に向かって話しているが自分自身に言っているようだった。

小さな明かりはやがて2つになった
警笛を鳴らして警報機がある踏切に進入してくる。
ゆうこにとっては久しぶりに聴くディーゼル機関車の重々しい音

「今のあなたには後悔という文字はないわ、ひたすら前を見て突っ走っている
後ろを振り向くということはしなかった」

「・・・・。」

列車は駅手前の転轍機に差し掛かり ダダダダ・・っと音を立て重いディーゼル機関車は左右に少し振られた

「あなたは・・未来の私はどうだったの?どんな行き方をしてきたの!」

「・・・同じよ、多分今のあなたと・・変わっていないかもしれない。いろんな事があった、自分のプライドが
自分を振り向かせなかった、常に前に押し出していた、人を傷つけても・・自分が傷ついても・・後悔はしなかった
後悔は負けだといつしか自分自身に根付いてた」

「・・・・・・」

「でも、そんな生き方が後悔だったんだ!その事に今まで気が付かなかった」

列車はゆっくりとこの短いホームに入線してきた
ディーゼルのアイドル音が2人のゆうこの横を通り過ぎ、やがて最終減速に入りブレーキの摩擦音と共に ガタン と一度揺れ完全停止した
駅舎から100m離れた所にある遮断機のない警報機は鳴り止んだ。
機関車の後続に連結された2両の客車の窓から洩れる薄明るい光の中で影が動いた。

「・・・・・そう・・・・なんだ」

「・・・・・」
ゆうこは無言で少女を見つめた

「やはりあなたは私に会いに来たのね・・・」
少女は何の違和感もなくゆうこに話した。未来の自分が過去の自分と話をしている、その存在があるだけでもとても不思議な空間なのに
この少女はまるで友人に問うように普通と話をしている。
先に状況を把握してから(ゆうこのほうが少しだけ早く状況を理解した)話しかけるのといきなり話されるのでは全く違うはずだ
ゆうこは彼女との時間があまり無いことを知っていた、彼女(自分)はこの列車に乗ってしまうからだ(自分の過去の経験がそうだった)
だからゆうこは少女がこの不思議な状態の中で自分とちゃんと話をしてくれることがとてもありがたく思った。

客車の中では車掌がアナウンスをしていた
ホームにいる2人のゆうこ達にもかすかに聞こえてきた。
「乗客の・・・さんに・・します。これより機関車の・・・しますので・・・・までは・・線路には・・・よう・・・ます」

2両の客車の合計4つの手動扉から乗客が降りてきた。
ゆうこは降りてきた乗客達をチラッと見た
見覚えのある人がいた
その人と目が合いゆうこは軽く頭をさげるとその人はおじぎをした

-あたしはこの過去の世界に確実に存在している-
あらためて実感した。

「会いに・・!そう、あなたに会う為にここに来たのかもしれない」

少女の視線は降りてきた乗客に向けられた
この列車に乗っていた乗客は20名、地元の人は7人で後は観光客だった
客車は一時的に誰もいなくなった

少女が客車に乗ろうとしたとき

「彼はこの列車には乗ってこなかったわ」ゆうこは後ろから声をかけた

デッキのステップに足をかけた少女は少しうつむきながらステップにかけた足を戻し、ゆうこの前に戻ってきた

車掌は駅の改札に来て切符の回収と販売をしている
鉄道作業員は機回しを行う為、機関車と客車のエアパイプと連結器を切り離している
観光客は皆カメラを持って駅周辺で写真を撮り始めた。

先ほどまで2人のゆうこしかいなかったこの小さな駅は今は小さく活気付いた。

「・・・そうだね・・・あなたは全てを知っているんだね」
「・・彼はこの列車には乗って来なかった・・・あたしは、この日彼に会うことをあきらめてこの列車に乗ってこの場所を去った」
「・・・・」

切り離された機関車は警笛を鳴らしてエンジン音を上げてゆっくり走り出した
ホームから50m先の車止めがある直前で止まった
作業員が機関車から降りて線路沿いに駅方面に転轍機のある所まで歩いた、そして彼は転轍機のレバーを往復させ動作確認をした後
転轍機をレバーを使って引き込み線側に切り替えた。
その間、機関車の運転手はリバース作業、確認を行った。
作業員が緑旗を上げると機関車は警笛を一度鳴らして逆進し引き込み線に入った

タイトルとURLをコピーしました